物語

2024/02/16 08:52

棚町弘一郎がたなまち農園を創業するまで、そしてたなまち農園がこれから目指していきたい世界について、まとめています。
ぜひご一読ください。



後ろめたくない、堂々と生きる人生の模索

これが、私が地元福岡に戻り、農業をするに至った原動力です。
私は、小さい頃から生き物が好きでした。しかし、子どもながらに、「地球で、人はわがままに生きているのではないか」と感じていました。
幼少期からそのような疑問を持ち続け「将来は地球の環境問題に取り組む人になりたい」と思い、九州大学農学部に進学します。

しかし、最初のオリエンテーションで言われたのは
「人類の営み(農耕)は自然破壊が前提」
ということでした。


希望を失った私でしたが、在学中に多くの生産者と関わる機会があり、そのときのご縁で有機農業と出会いました。

「自然破壊が前提と言われる農業で、自然と折り合いをつけられる形があるのかもしれない。もっと人を愛せるかもしれない」有機農業との出会いは、私にとって希望の光になりました。



流通の世界を知る

大学卒業後は、有機農業への関心から、株式会社大地を守る会(現オイシックス・ラ・大地株式会社)に入社し、全国物流の世界を学びます。


そこには、全国の生産者と繋がり、産地ごとの旬をリレーしていきながら、年間を通じて旬の野菜を提供する仕組みがありました。それは、南北に長い日本列島をまたぐ流通サービスとしてとても素晴らしいもので、全国の人が手軽に有機野菜を手に入れられるようになりました。


一方で、福岡の人が福岡の野菜を食べるときにも、その野菜は関東の物流センターまで運ばれ、運送会社によって福岡まで戻ってきます。

私にとっては、これがどうしても「もったいない」と感じてしまいました。

「地元の人が地元の野菜を新鮮なうちに食べられるようにしたい」という思いから、福岡に戻り、自ら農業をすることを決意します。


"流域"との出会い

退職後、埼玉県の霜里農場で1年間の住み込み研修、そして福岡県のむすび庵で1年間の農業研修をしました。

霜里農場での研修中、「大地の再生」で知られる、環境再生医・造園技師の矢野智徳さんとのご縁をいただきました。

私は、そこではじめて、"流域"という言葉を知りました。

この"流域"という言葉を使うと、今までぼんやりとしていた、あらゆることがストンと落ち、整理されていったのです。


生態系の単位は"流域"によって形成されていること。

あらゆる文明は川から始まり、その流域に形成されていること。

そして、その上流には、常に寛大な自然があり、下流部はその恩恵を受けて生活できているということ

流域という言葉は、私の頭の中をすっきりと整理してくれたのです。


"地元=川の流域"と定義する

同時に、地元の定義は人によって違うこともわかりました。

私は「福岡出身」です。しかし、私が地元を表現する際には、福岡市が地元なのか、福岡県が地元なのか、九州が地元なのか、それとも国産が地元なのだろうか。「私は、どの範囲まで野菜を届けたいのだろう」そう考えるようになりました。


「川の上流部で自然と折り合いのつく野菜づくりをして、下流部に住む皆さんにお届けしたい」

その想いから、地元である室見川の源流部にて、耕作放棄地を借り、たなまち農園を創業しました。


美しい自然、安心の食卓 〜川の流域を中心とした野菜のお届け〜


美しい自然、安心の食卓

たなまち農園の理念は、

「美しい自然、安心の食卓」です。

美しいとは調和がとれた状態であり、調和がとれた状態に人は安心感を覚えます。

また、自然とは、そもそも美しいものだと思っています。


そして、味が美しいと書いて、美味しいと表現します。

すなわち、美しい自然から育まれた食べ物は、調和がとれており、美味しい。そのような美味しく、調和のとれた食べ物は、安心を与えることができると思っています。


たなまち農園のMission

①人にとっても地球にとっても持続可能な農業生産を行い、美しい自然を未来に継承していくこと
②食べものを通して、ひとびとの暮らしに安心を提供すること


たなまち農園は、野菜の生産からはじまり、皆さんがそれを口にし、安心を感じるところまでを一貫して行いたいと思っております。


一般的な農業の流通

一般的な農業生産として、農協に出荷するような場合を例としてあげます。出荷する野菜は、原則全量購入のため、生産者にとっては、販売のことに悩まなくて済み、生産に専念することができます。一方で、価格のコントロールはできないため、生産者が収入を増やそうとするならば、生産量を増やすのが定石です。すると、生産者はできるだけ量を採りたいと考えるため、全国的に「作りすぎ」が起きやすくなります。それにより、価格が暴落したり、フードロスに繋がったりする可能性があります。


また、全国の消費者が対象になるため、仲介業者も多く、消費者の手元に届くまでには多くの時間を要してしまいます。

私の前職の会社のようにその仲介を減らし、かつ生産者に対する理解のある野菜の流通会社も存在はしますが、どんなに早くても収穫からお届けまでに中1~2日はかかってしまいます。

たなまち農園の流通

たなまち農園の流通の特徴は、
生産から販売(お届け)までを一貫して行っている点です。
まず、お届けエリアが流域に限定されているので、消費者との距離が近く、収穫から24時間以内のお届けが可能です。
また、定期購入を前提とするため、収穫量を見込むことができ、大量の作りすぎを防ぐ、受注生産のような形態をとることができます。


そして、年間を通じて、野菜の金額を一定にしているため、市場価格の影響を受けず、消費者にとっても生産者にとっても安心してサービスを続けることができます。


地元室見川流域で広がるつながり

現在、たなまち農園は地元室見川の流域を中心に、たなまち農園で有機栽培された野菜の定期宅配をしています。また、定期的に農園で作業を一緒に行ったり、


見学会を開くことによって、私たちたなまち農園が大切にしている想いを伝える場をつくっています。


また、個人宅向けのサービスとしてはじまったたなまち農園ですが、現在では地元の飲食店・助産院・小学校の学校給食・介護施設でも使用されるようになり、川を中心にして、野菜を通したつながりが広がっています。


One river, One farmerを目指して

たなまち農園の展望(目指す世界)



まずは地元福岡(室見川流域)にて、野菜の宅配を中心とした、流域連携のモデルづくりをします。そして、たなまち農園の想いに共感する仲間たちを育んでいきます。



次に、たなまち農園で想いをともにし、そして技術を磨いた人材が、それぞれの地元=川の流域にて、流域連携モデルの実現を目指します。



最後に、その流域で育った人材が、また自身の地元で豊かな暮らしを実現する、それが、日本中、世界中へと広がることで、

「人の営みを愛し、この美しい自然を未来に継承」できると考えています。

そして、最終的には、例えば北海道の札幌では、「石狩川流域(札幌)の生産者」が「流域内の消費者」に対して「流域内の流通網で」食べ物が流通する世界を実現したいと考えています。

現在、たなまち農園がひとつのモデルとなるように、この福岡の地で農業を営んでいます。そして、その輪は少しずつ広がっています。

将来的には、たなまち農園で技術を磨いたメンバーたちがそれぞれの地元に戻り、地元=川の流域を中心としたサービスを展開していくのが目標です。


私たちたなまち農園がやりたいことは、

野菜づくりそのものではなく、野菜づくりを通して、安心の食卓を提供すること。
安心の食卓が広がることで、その源である美しい自然を後世に繫いでいくこと。
自ら幸せになることを恐れず、躊躇せずにチャレンジしていくこと。
そんなチャレンジする大人たちをみて、こどもたちが僕らもこんな大人になりたいと、未来に希望を持ち、僕ら以上のチャレンジをしてもらうことです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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